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執筆者の写真Natsumi

【Field Notes】ICF SUP World Championship Race Report

みなさんこんにちは!Natsumiです。


とってもとってもお久しぶりの投稿となりますが…

2023年の下半期は、今年初めて挑戦することを決めた、世界大会に出場することにフォーカスして過ごしていました。


その中でも自分の中で最も重きを置いたのが、今回11月14日〜19日にタイ・パタヤ開催のICF SUP WORLD CHAMPIONSHIPS。少し長くなりますが、今日はこのICFに挑戦して、どのように過ごしていたのか、どう感じたのかを伝えられればと思います。



15日(水) 出発


成田空港から約7時間のフライトを経て、いざタイへ。


10月にフランスで開催されたISAではボードを現地まで飛行機に乗せて運ぶミッションがあったので、出発前からちゃんと乗せられるのか、無事にボードは到着するのかヒヤヒヤしていましたが…

今回は現地までボードを直送してもらっていたので、ノーストレス。ありがたい限りです。


日本はすでに朝晩は真冬の寒さで乾燥していましたが、タイは連日30度を超える真夏のような暑さと湿度。この暑さを想定して、普段ならこの時期絶対に着ないようなウェットスーツやジャケットを着込んで練習してきたのですが、その意味があったのかな…と感じるくらいの暑さ。


別便で来ていた今回一緒に宿を共にするジュニアたちと無事合流。バンコク国際空港から車で1時間半ほどにある大会会場のジョムティエン・ビーチ近くの広々としたヴィラへ。KOKUA ハウスとしてチームメンバー総勢9名でシェアして5日間過ごしました。




荷物を宿に置いたら、すでに19時。スプリントレースの予選に出場するために先に現地入りしていたTeam KOKUAのNariたちと合流し、食事をして就寝。



16日(木) Sprint Final

この日はスプリントのファイナルデー。私は大会スケジュールが変更されたため、スプリントは棄権していました。翌日に会場となる場所で実際に漕いでコンディションを確認。ボードはこのために用意してもらったKOKUA FLY PRO New Modelの新艇。ぴかぴかのボードに気が引き締まりました。

基本的にフラットですが、薄いうねりが入るコンディション。コースどりを確認し、翌日のイメージを膨らませながら気持ちよく走らせることを意識し、レース前最後のインターバルで身体をしっかり動かしました。


明け方で太陽はまだ昇っていませんでしたが、蒸し暑く、湿気を含んだ空気は重くて少し溺れそうに感じるほどでした。















Nariのスプリントレースの応援のためTeam KOKUAで会場へ向かいます。

スプリントのみディスタンス・テクニカルの会場からさらに車で30分ほど離れたRCAT Training Centreで行われました。この日が最も暑く、陽射しも刺すよう。正直これに出ていたら体力をかなり消耗していたと思います。Nariのヒートを見届け、ランチ後は宿に帰ってリラックス。

ヴィラにはプールもついていて、暑くなったらすぐ飛び込んでクールダウンできました。

リビングで談笑したり、翌日についてミーティングをしたり、今回帯同してくれたPaleo Life Academy のトレーナー、Kojitoさんにケアしてもらったりと各々自分にフォーカスしつつ、1人ではない安心感の中で過ごせました。




17日(金) Long Distance


現地入りして2日目、いよいよディスタンスレース当日。

スタートダッシュやターンなどのテクニックはまだまだでも、持久力で勝負できるディスタンスにフォーカスし、今年一年この種目を目標にトレーニングを積み重ねてきました。


私は極度のあがり症で、いつも重要なレース前は緊張でがちがち。口数が極端に減り、表情は険しく、悲しくもないのに涙が滲んだり。「私、緊張してるんです」オーラを出しまくりで周りの人にはいつも申し訳ないなあ、情けないなあ。と思っています。


普段身体のケアをしていただいている、Paleo Life Academyのたかしさんもこの日からタイまで来てくれて、レース直前にカイロプラクティックの施術をしてもらい、Kojitoさんにも最後のケアをしてもらったことで、身体のコンディションは万全で望むことができました。


会場の雰囲気にのまれないよう、暑さで消耗しないように、ぎりぎりまで宿で過ごし、約1時間前に会場へ。

メンズオープンのスタート時にはかなり強かったオフショアは大分和らいでおり、暑さの方が際立っていました。


軽く漕いでアップをし、日陰で目を閉じて呼吸を整え、コース取りやペース配分、どこでどうしかけるのかなどレースの展開を確認。


今回はケニーさんがサポートに回ってくれ、必要なタイミングで必要な行動をするように導いてくれたり、言葉かけをしてくれたり。緊張しながらも、どこか「私は大丈夫」と信じられていたと思います。ケニーさん自身もディスタンスに出場したのに、みんなのサポートが十分にできなくなるから、と5km時点でレースを棄権し、サポート役に徹してくれました。


「大丈夫、何も失うものなんてないし、誰かのためなんて考えなくていい」

「全ては経験だから、自分のためだけに漕いでおいで。楽しんで」


その言葉でレースをやる意味を再確認でき、前を向けました。


私が世界大会に参加してみて一番印象的だったのが、スタートの前、ブリーフィングやチェックインからのラインナップまでのタイトさと盛り上がり。

国内レースはブリーフィングで「〇時△分にスタート、スタートシークエンスは〜で、はい、よろしくお願いします」から少し時間を置いて余裕を持ってラインナップ。それからのアナウンスはほとんどなく、比較的穏やかなイメージです。人数も男女一斉スタートなら話は別ですが、男女別ならスタートが勝敗を握ることは少なく、クリーンに出られることがほとんど。


でもISAはブリーフィングの直後にラインナップしなければならず、今回のICFもGPSを受け取りゲートをくぐったらすぐにラインナップへ。「あと〇〇分でスタート」というアナウンスが常に鳴り響き、選手たちの発するエネルギーが充満して、スタートラインの熱量がぶわっと上がります。


ISAの時は完全に雰囲気にのまれてパニックになっていましたが、今回は昂ってはいたけれどサポートチームのおかげである程度落ち着いてゴーサインを待てました。


全てが完璧に決まって成功するイメージを絶やさないように。


スタート位置を決めて、7-8分後、「Ready」の掛け声とホーンの音でスタート。


スタート位置はできるだけ巻き込まれるリスクが少ない端側を選び、クリーンに決まって飛び出せたのでスタート直後からフレッシュな海面を漕ぐことができました。第1マークは4位。第2マークへ向かうレグですでに長いトレインが出来上がっていました。まずは第1集団に着いていくこと。そこはクリアできました。

トップ集団のペースが落ち着いてきた頃、ドラフティングが得意ではない私は先行艇にうまくノーズを合わせることに苦戦していました。スピードだけならついていけるはずなのに、ボードをコントロールすることで精一杯に。


若干ノーズがぶれた瞬間、先行艇から少し離され、その間に後続艇が横並びに迫ってきました。

必死で元の位置に戻ろうとしようとしたその時、私のことが邪魔に感じていたのであろう後続艇にボードを突き飛ばされ、落水。私はあろうことかパドルから手を離して見失ってしまいました。幸いすぐ近くにあったパドルを見つけて泳いで掴み、ボードに飛び乗った時にはトップ集団は遥か先へ。

「終わった」と一瞬感じました。

でも、落胆している暇はありません。

第2集団には追いつきたい。

少し前に第2集団からもはぐれた選手が散らばっていましたが、きっと彼女たちにドラフティングしても第2集団との距離を詰めてくれる漕力はない。そう判断して彼女たちの後につくことはせず、自分の力で第2集団を目指すことにしました。

追い越した選手は私にドラフティングすることを選びました。ここで後ろの選手を巻くテクニック、付かれないように追い抜く余裕とクレバーさがあればよかったのですが…


強かったオフショアは弱まったにせよ、依然吹き続け、サイドウィンドのレグが長く、必然的に片漕ぎが多くなります。加えて炎天下でどの選手もバテてきていることを感じました。

暑さは得意な私はペースをできるだけ落とさないよう、少しずつ差を縮めることだけを意識しました。絶対に諦めたくありませんでした。

結果、第2集団との距離は縮まったけれど、残念ながら追いつくことはできませんでした。


そして、最後のブイターンで私が引っ張り続けた選手が仕掛けました。

ここでその選手に食らいつく余力はなく、フィニッシュへの数百メートル、最後の力を振り絞って漕ぎ切りましたが前に出られました。


結果は8位。


ミスもアクシデントもあった。でも間違いなくやり切った。今の等身大の実力を表した結果だったと思います。


ゴールで応援してくれていた皆に労いの言葉とハグをもらい、いろいろな感情が溢れて涙が止まりませんでした。こどものように声を上げて泣きました。

素直に悔しい、と感じましたが、まだまだ私の挑戦も経験も始まったばかりです。

次の日から始まるテクニカルレースに向けて気持ちを切り替えなければなりません。



私の後にはNariのU18ディスタンス。私は少し休む必要があったので、宿に戻ってスタートはYoutubeのライブ配信で応援することに。ゴールでまた、と宿を経つNariを見送りました。


Nariは見事2位。悔しさもあると思いますが、笑顔でゴールに飛び込んできた彼の姿に感動し、また明日から私も頑張ろう。と奮い立たされました。




18日(土) Sprint Qualifying


レース2日目はスプリント予選。ここで勝ち上がれば翌日のセミファイナル・ファイナルへと繋がります。


スタートやターンの精度がまだまだ、ダッシュなどの瞬発系が不得意な私にとって、テクニカルは苦手な種目。混戦になることも普段のレースではほとんどないので、駆け引きやここぞというときの競り合いも普段の練習でしか経験がありません。


私は今回、ディスタンスに懸けていたので、テクニカルは「予選通過できればいいな」くらいの気持ちでした。

それでもやるからにはもちろん予選は通過したいし、セミファイナルも勝ち上がってBファイナル(セミファイナル敗退者で行われる13位から24位までの順位決定戦)ではなくAファイナル(メダル決定戦)に進みたい。幾分かリラックスはしていましたが、せっかくの挑戦の価値を最大限にするためにベストを尽くそう、と考えていました。


私のヒートは遅い時間だったため、ゆっくりとKojitoさん、たかしさんのケアを受けて待機。

テクニカルは1つのミスが大きく順位を変えるシビアな種目。マーク間の距離は短く、それぞれのターンの角度もきつい。今回のコースはステップバックしなければならない角度のターンが全て難しいフロントサイド。予選はビーチランのない500mのコースを1周のみ。


何が起きるかわからないのがテクニカルのエキサイティングな面白さですが、ディスタンスと違って距離が短いため、一度ミスすると挽回するのはかなり難しくなります。



私はターンもスタートも得意でないから、とにかくミスをしないこと。

攻めるのではなく、全てを安全にクリーンに決める。失敗するイメージは全て頭から消し去って、良いイメージだけを持つようにスタートまでの時間を過ごしました。


苦手意識のあったスタートはとても綺麗に決まり、真ん中からのスタートでも巻き込まれず前に出せました。トップの選手はテクニカルが得意。安定感のあるターンを間違いなく決めていく彼女の後を追って2位でフィニッシュ。私のターンは大きく膨らみ、お世辞にも上手とは言えませんでしたが…無事予選通過しました。



19日(日) Technical Semi Final / Final


そして迎えた最終日、テクニカルレースのセミファイナル/ファイナルデイ。

せっかく与えられた世界のトップ選手たちと漕げる貴重な機会。胸を借りるつもりで思い切りやりきろう。と臨みました。


セミファイナルはスプリントで優勝した選手や、テクニカルレースの上手いベテランの選手が同じヒート。


スタートは今回も綺麗に決まりましたが、さすがセミファイナル、ダッシュ力のある選手たちの前には立てず5-6位。12人中6人勝ち上がりなので、ラウンドアップギリギリのライン。セミファイナルはビーチランもあり、予選の倍の2周1km。


ビーチランからのトランジションもうまくいき、ラスト1周。2週目の順位は5位。

6人勝ち上がりなので、このままいけばファイナルにいける。手を抜いたという意識はありませんでしたが、死ぬ気で順位を上げなくちゃ、とも思っていなかったのが本音です。

最後のマークを回り終え、フィニッシュへの直線、一瞬ぐらつきました。


そのまま耐えられず、落水。

後続艇に追い抜かされ、7位でフィニッシュ。Aファイナル進出を逃しました。


「5位には入っている」その考えの甘さが、この落水につながったと思います。


順位を意識してしまったことで、順位に飲み込まれた。

意識すべきは順位ではなく、どんな時も自分の漕ぎをすること、状況に対して最大限のパフォーマンスをすること。


その意識があれば、まだ仕掛けどころはあっただろうし、順位を一つでも上げるために必死になっていたと思います。少しバランスを崩したくらいでは絶対に落ちない集中力があっただろうし、もし落水していても安全な位置でAファイナルにいけていたでしょう。

テクニカルは相手・自分のミスで順位が大きく変わります。だからこそ、少しのミスも、気の緩みも自分に許してはならない。いつだって何が起きるか分からないのだから。


この結果が世界で戦うためどう考えてどう望まなければならないのかを教えてくれました。


私は、まだ甘かったし、弱かった。それが悔しかったし、情けなかった。

でも、それが今の私そのものでした。


数時間後には、Bファイナル。

落胆していましたが、落ち込んでいる暇はない。Bファイナルに向けてできることをやろう。

そう気持ちを切り替えました。

宿に戻ってクールダウンし、ケアを受け、また会場へ。


良いイメージを絶やさないように。楽しんで。これが最後だから、思いっきりやってきな。



ケニーさんにポジティブな言葉をかけ続けてもらいながら、Bファイナルのスタートラインへ立ちました。


スタートは全て成功させ、いいイメージは持てていました。後は出し切るだけ。

今見ることを許される、最高の景色を見たい。

一番、肩の力が抜けた状態で、冷静だったかな、と思います。


Bファイナルも真ん中の位置からのスタートでしたが、最高のスタートを切れました。巻き込まれることなくトップスピードで前に出し、第1マークへ。後は全てのターンをクリーンに決め、加速させ続けるだけ。

ビーチランからの滑り出しも成功し、2周目へ。



後続の選手がパドルする音はもう聞こえませんでした。大きく、私らしく漕ごう。ゴールゲートの向こうではためく日の丸が見え、日本語の声援が聞こえます。

ディスタンスもテクニカルのセミファイナルも、フィニッシュラインに駆け込んだ時は涙で滲んで前が見えなかったけれど、初めてクリアな景色が目に映りました。



「どう?最高?」ケニーさんに聞かれて、

「最高です」笑顔で答えられました。


Bファイナルだったかもしれないけれど、世界の舞台でトップを走る経験ができて、本当に気持ちよかった。

またこの景色を見たい。まだ先かもしれないけれど、誰の足跡もついていないゴールゲートに駆け込んで、メダルをその首にかけたい。


その夜、表彰式で表彰台に上がる選手たちや、テクニカルでも3位となった笑顔のNariの姿を見ながら、そこにいる自分の姿をイメージして、ワクワクしました。


こうして、全ての日程を終え、私の今年度最大の挑戦が終わりました。



今回出場したICFでは、Team KOKUAの手厚いサポートがありました。


どこにいても他の選手の気配を感じる高層ホテルではなく、広々とした一棟貸しのヴィラでチームメイトたちとリラックスして過ごせる空間を用意してもらえたこと。普段の身体のケアを同じように現地でも受けさせてもらえたこと。誰かや何かに気を遣ってスケジュールを立てて行動するのではなく、自分が勝ちに行くために全て自分軸で考え、行動できるようにスケジュールし、配慮してもらって過ごせたこと。海外でレースをする上で最もストレスがかかるんじゃないかと思う、渡航、ボードやギアの運搬・手配の心配がなかったこと。


世界の第一戦で戦い続けていたケニーさんだからこそわかる、選手が真に必要なサポートを与えてもらって、自分のパフォーマンスを最大限発揮することだけに集中させてもらえて、このICFの期間を満ち足りた状態で過ごせました。


ここまで心身ともに十分なサポートがある状態で臨めたのは、きっと世界の他の選手でもそういないんじゃないかと思います。

この環境の中で「自分のため」だけに漕げていることは本当に幸せだと感じたのと同時に、この環境の素晴らしさを、今回NariやGeneration Nextのジュニアたちも結果で証明したと思います。



今年、初めて世界大会に挑戦することを決め、ISA、ICFと2大会に出場しました。

そこで戦う女性たちはやっぱり強くて速い。自分を磨くための努力を本気でしている。それは彼女たちの結果と身体が物語っていました。

そして同時に、同じ人間なのだな、とも思いました。遠い雲の上の存在ではなく、背中を追うだけでなく、その隣にいる自分をイメージができました。


世界に行くには自分が強くなる努力をすることはもちろん、コミュニケーションをとる努力が必要だったり(私は英語を話せません)、まず会場にたどり着く労力がとてつもなく、その段取りも大変なこと、現地では予定通りに行かないことが多く、それに対して柔軟に対応する力が必要であること、レースで漕ぐ以外のミッションをクリアするためにできるようにならなければいけないことが沢山あると痛感しました。


だからこそ、日々の生活で無駄をもっと省いて、もっとやるべきことに注力する時間と余裕を増やし、本番では今回のように出来るだけ自分だけにフォーカスできるようになる必要がある、と感じました。


2年前、コロナ禍もあって漕ぐ手を2年間止めていました。このまま漕ぐことを忘れていくんだろう、そして私も漕ぐことから忘れられていく。そう思っていました。そして、そのことに悔しさも悲しさも感じなくなっていました。


だから今、また漕ぎ始めて世界大会に出場しているなんて、想像もしていなかった。

まだスタートラインに立ったばかりだし、見たい景色を見るには、もっとたくさんの努力と経験を重ねなければなりません。


これから、自分はどれだけやれるのか、やりきった先にどんな景色が待っているのか。

今は、それだけが楽しみです。


Natsumi

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